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Alpaca技術ブログ

AIと超高速データストレージを駆使して新しいトレーディングを創る

日米の新しい証券会社設立例から読み解くFintechトレンド

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こんにちは。インターンの加藤です。突然ですが、金融業界というと規制が多く、参入することが難しいイメージがありますよね。しかしここ数年、Fintechのスタートアップを中心に、日本国内外の大手金融機関や事業会社の関連会社としてではなく、新たに証券業を営む会社が生まれてきています。今回はそもそもどうやったら証券会社を作ることができるのか、日米の比較を中心に、そこから見えてくるFintechのトレンドに迫りたいと思います。

目次

  1. どうやって証券会社を作る?
  2. 日本の場合
  3. アメリカの場合
  4. まとめ

どうやって証券会社を作る?

「証券会社を作る」と言うと、ものすごくハードルが高く、大手の企業でなければ参入するのは難しいのでは、と言うイメージがありますよね。しかしここ数年、”証券会社”として業務を行うFintechのスタートアップが日米で誕生しています。日本では、ロボ・アドバイザー「THEO」を提供しているお金のデザイン、スマホ証券のOne Tap BUYなど、アメリカでは以前取り上げた、取引手数料が無料というスマホ証券のRobinhood、ロボ・アドバイザーを提供しているBettermentなどです。

日米のFintechスタートアップ

日本でもアメリカでも証券業を営むにはライセンスの取得が必要です。そこで、それぞれのFintechスタートアップが取得しているライセンスをまとめてみました。

まずは日本からみていきましょう。

f:id:alpacablog:20161212171118p:plain*上表を2016年12月12日に修正しております。株式会社お金のデザインは有価証券関連業も取得しておりますが、これまで掲載していた表においては有価証券関連業を取得していないというふうに表記されておりました。これは弊社の間違いでして、株式会社お金のデザインは、第1種、投資助言・代理業、投資運用業、有価証券関連業を取得しております。これによって生じた誤解やご迷惑につきまして、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。尚、本件における詳細情報につきましては "金融商品取引業者登録一覧" をご参照ください。

お金のデザイン、One Tap BUY、ウェルスナビは第1種金融取引業のライセンスを取得していますが、その他のライセンスは全て同じというわけではないのですね。

*株式会社お金のデザインについて、有価証券関連業にチェックが入っておりませんでしたが

アメリカの場合はどうでしょうか*1

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Broker Dealer (BD)とInvestment Advisor (IA)のどちらか、または両方のライセンスを取得しているようです。また、日本の3件と比較すると、アメリカの方が証券業関連のFintechスタートアップの数がそもそも多いこと*2、Motifのような日本ではまだあまり馴染みのない、自分で作成したテーマに対して投資できる形態の証券会社が作られていることも特徴的です。(ちなみにこの記事によると、日本でもFolioがこのコンセプトに近いサービスを立ち上げようとしていますが、まだ本日の時点では正式にスタートしていないようです)

さらに、新しい証券会社をその技術に着目して大手の証券会社が買収する事例もあり、日本と比較すると金融にも産業のダイナミクスがあります。これは過去にこの記事でも紹介した株式投資が日本に比べて非常に活発な米国特有のマーケット特性も関係していると考えられます。

日本の場合

ここからは、日本とアメリカ、それぞれについてもう少し詳しくみていきましょう。

証券会社とは

まず、今日時点の日本において、「証券会社」という言葉に正確な定義はないようです。今日時点の、というのは、2007年に法改正が行われる前、従来の証券取引法で規制の対象とされた業務を「証券業」と呼び、そうした業務を担う業者を「証券会社」と呼んでいたからです。一方、現在の金融商品取引法では、規制の対象となる業務を「金融商品取引業」、そうした業務を行う業者を「金融商品取引業者」と呼びます。その金融商品取引業は、業務の内容によって、第1種、第2種、などに分類され、この資料では「第一種金融商品取引業を営む者とは、従来の『証券会社』に該当する者である ということができるだろう。」としています*3

証券会社の作り方

では、どうやったら証券会社を作ることができるのでしょうか。(ここからは、第1種金融商品取引業を営む業者を「証券会社」とします。)そのためには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があります*4。そして内閣総理大臣は、拒絶理由に該当する事実がない限り、原則として申請者の登録を認めなければいけません。

拒絶理由には、すべての業務に共通するものと、個別に設けられている事項があります。共通事項には「登録申請書・添付書類等に虚偽記載などがある」、第1種には「株式会社、又は外国の法令に準拠して設立された同種の法人ではない」「自己資本比率が120%を下回る」などがあります。

拒絶理由がなければ登録されるとはいえ、簡単に登録できるものなら、もっとたくさんの証券会社が生まれているはずですよね。登録が認められるには、事業の適切性や財務の健全性などを事前に厳しく評価・検証されます。

日本における金融規制緩和の動き

やはり金融業界に参入することは難しいのでしょうか。しかし、ここ数年、そんな金融業界にも動きがあるようです。

2007年の法改正の後、新たに第1種金融商品取引業に登録された企業は関東財務局の中では20社ほどしかなく、さらにそのほとんどは日本国内外の大手金融機関や事業会社の関連会社です*5。そんな中、2014年9月、ロボ・アドバイザー「THEO」を提供しているお金のデザインが登録され、去年の年末にはOne Tap BUY、ウェルスナビが登録されました。Fintechスタートアップの勢いを感じますよね。さらに、今年5月、銀行法や資金決済法の改正案が国会で可決されました。いずれもFintechをにらんだ改正となっています。

金融規制について、『Fintechの法律』(増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著)の中で、金融規制を変えるのは容易ではないとしつつも、金融規制のルールが変化していくと考えるのが自然だ、と言っています。

つまり金融規制は、消費者保護、国内の産業インフラの整備(資金決済システム、証券決済システム、リスク移転システムを含む広い意味での金融システムの安定)のほかに、国際的な金融安定という三重の意味で金融業をコントロールすることになります。このため、金融分野では規制を変化させるほどの大きなイノベーションは起こらない、と受け取られがちでした。 (中略) 今回のFintechの波は、既存の金融規制の価値体系に対する新たなアプローチを提示しています。こうした流れに適合する形で、金融規制のルールが変化していくと考えるのが自然でしょう。すでにそうした動きの萌芽が見えつつあります*6

日本国内でも規制のルールが少しずつですが変化している中で、新たなビジネスモデルや技術を用いたFintechサービスが今後も次々とあらわれそうですね。なんとなく重いイメージがあった”証券会社”の業界に、私たちでも馴染みやすいイメージやアプローチのサービスがたくさん出てくることを楽しみにしています。

アメリカの場合

続いて、アメリカの場合についてみていきましょう。

先ほどのBroker Dealer (BD)とInvestment Advisor (IA)を比べると、必要事項は共通するものもあれば、異なるものもあるようです。

例えば、IA取得に登録が必要とされる組織は、SEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)、FINRA(Financial Industry Regulatory Authority)の二つですが、BDの場合、上記の二つに加え、 SIPC(Securities Investor Protection Corporation)への登録が必要です。さらに、先物取引を扱う場合は、CFTC(Commodity Futures Trading Commission:米商品先物取引委員会)への登録が必要な場合もあるようです*7

では、BD、IA共に登録が必要なFINRAのメンバーになるには、どうすればいいのでしょうか?この記事では、FINRA Rule 1010によると、以下を含む書類を提出しなければならないとしています*8

  • Form BD(Broker Dealer登録のための書類)
  • A FINRA-approved fingerprint card(特定の指紋カード)
  • A detailed business plan(詳細な事業計画書)
  • Documentation of regulatory, civil or criminal actions(規制、民事、刑事訴訟に関する書類)
  • A description of the prospective member's financial and supervisory controls(監査役メンバーの経歴)
  • A copy of final or proposed contracts with financial intermediaries(金融仲介業者との契約書のコピー)
  • And Much More... For the full list, please refer to FINRA Rule 1010 for more information.(その他の必要書類についてはFINRA RULE 1010を参照されたし)

日米を比較して

先ほどの『Fintechの法律』の中で、日本とアメリカを比較して、こんなことが言われています。

米国が採用しているのは、Fintechスタートアップに多額の投資資金を付けて、既存の金融事業者と連携しつつ、旧来の金融サービスをディスラプト(破壊)していくというモデルです。規制当局との連携には弱い面があります。日本が見習うべきは英国のモデルでしょう。英国は、シティ(ロンドンの金融)に厚い金融のコミュニティーを持ち、規制当局、既存金融機関、Fintechスタートアップが、金融ビジネスにおける英国の主導的地位を維持強化するという共通目標に向かって協調する姿勢を明確に打ち出しています。日本も首都圏エリアを中心に、金融庁や既存金融機関が集積しており、金融の中心地である大手町にインキュベーション施設も整いつつあります。協調のためのインフラは整備されたといえます。金融庁との密接なコニュニケーションを通じて、協調体制を作ることは十分可能です*9

このように、Fintech→シリコンバレー→アメリカと考え、進むべき方向としてアメリカのモデルを参考にすることが必ずしも正解ではなさそうです。

その代わりとして、ここでは英国モデルが推奨されていますが、この本の出版後、Brexitが起こりました。イギリスのFintechスタートアップを取り巻く環境は、今後変化していくと言えるでしょう。そしてその変化はEU諸国を通じて、Alpacaにも届いています。次回以降で、このあたりの話にも迫りたいと思います。

まとめ

今回は証券会社の設立方法についてレポートしました。金融規制はFintechスタートアップにとっては大きなハードルであるようで、以前サンフランシスコで開催されたFintechのイベントでも話題になりました。その中で、500 StartupsのSheel氏は、「Uberが無許可でタクシービジネスを始めて大きくなっていったような、ある意味無茶なやり方はFintechでは命取りになる可能性がある。例えば今後一生証券を触れなくなるといったようなリスクだ。そういうことにならないように、慎重に進めなければならないのがFintechだ」と述べていました。

また、スタートアップ単体での打破が難しい規制や金融業界の事業化の部分を、スタートアップと大手金融機関がタッグを組んで行う取り組みも増えています。Alpacaが参加するMUFGアクセラレーターもその取組の一環で、Alpacaも事業化にむけて素晴らしい支援を受けており、金融機関の本気度が伝わってきます。

今回でまとめましたように、日本に限らず海外各諸国の金融規制は複雑です。個人の資産を扱う証券業務、投資助言業務、投資運用業務については、個人の資産を守るためにも、各国が様々なルールを作っています。Fintechの波において新たな技術やビジネスモデルを採用したサービスがうまれるなかで、これまでのルールが必ずしもカバーできない場合も今後さらに出てくると思います。既存のルールを調査して理解した上で、事業によって必要なライセンスを見極め、規制とうまく付き合いつつ、今後も画期的なFintechスタートアップが出てきてほしいなと思います。

*1: 米Fintechスタートアップ一覧における各企業の詳細については、各企業のウェブサイトをご参照ください。 Robinhood (https://www.robinhood.com/) Motif (https://www.motifinvesting.com/) Betterment (https://www.betterment.com/) Wealthfront (https://www.wealthfront.com/) Covestor (http://covestor.com/) TradeKing (https://www.tradeking.com/) Zecco (https://www.zecco.com/) Personal Capital (https://www.personalcapital.com/) FutureAdvisor (https://www.futureadvisor.com/) SigFig (https://www.sigfig.com/)

*2:日本のFintechスタートアップについては2007年の法改正以降を調査対象としたため、米Fintechスタートアップについての表では2006年以前に設立された会社はグレーで表記をしています。

*3:大和総研 横山 淳「金融商品取引業とは?」(『大和総研 金融商品取引法シリーズ-29 』2006 年 08 月 18 日 4ページ参照)(http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/06081801securities.pdf

*4:大和総研 横山 淳「金融商品取引業の参入規制の細則案」(『大和総研 金融商品取引法シリーズ-60 』2007年06月27 日 2ページ参照)(http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/07062701securities.pdf

*5:金融庁『金融商品取引業者登録一覧』平成28年6月30日現在( http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kinyushohin.pdf

*6: 増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著『Fintechの法律』(日経BP社、2016年)

*7: “FUTURES COMMISSION MERCHANTS (FCMS) & INTRODUCING BROKERS (IBS)” (http://www.cftc.gov/IndustryOversight/Intermediaries/FCMs/fcmib)

*8:“According to FINRA Rule 1010, some items that must be submitted include:”(http://www.investopedia.com/professionals/faqs/general/210105.asp)

*9:増島雅和・堀天子・石川貴教・白根央・飯島隆博 著『Fintechの法律』(日経BP社、2016年)